
フラットコーテッドレトリーバーという犬種を、僕はパピーミルに勤めて初めて知りました。
レトリーバーと言えばラブラドールかゴールデンしか知らなかったのですが、フラットコーテッドという何やら妙にカッコイイ響きの犬種がいるんだなと当時は思いました。
しかし、どんな犬種であれ、檻の中ではその能力も特性も発揮することはできません。
僕が見た若いフラットたちは、檻の中でいつもぴょんぴょん飛び跳ねて、小さな水桶に体を沈めて、真冬だろうとホースの水を自ら浴びに来て、短い運動時間に狭い通路を何往復も走って、豚の飼料を必死に食べて……。
そんな中で、いつも穏やかに笑みを浮かべていた、高齢の♂の子がいました。
ドロドロの飼料ばかり食べているせいで歯肉が膿んで、目の下の皮膚に穴が開いていました。
足腰も弱り、交配ももうしていない、余剰犬としてただ生かされているだけの日々。
産まれたブリーダーを調べたら、インスタのフォロワーが4000人以上いたよ。
当たり前だけど、可愛い子犬ばかり載っていた。
きっとお前も、その中の一頭だったんだろうな。
それなのに、どうしてパピーミルに流れ着いてしまったんだろう。
『世界を救う! ワンにゃフル物語』っていう番組に出演したって書いてあった。
自分が産ませた子犬すら救えないのに、世界が救えるわけないだろ。
貴方が2012年6月に産ませたその子は、2012年8月から2024年5月31日にパピーミルを抜け出すまで、12年近く地獄のような生活をさせられました。
その間、あの子は一度も散歩に行けず、おやつを食べたこともなく、シャンプーは年に1回程度、真夏でも真冬でも屋外の薄い木板の上で生きることを強いられました。
そして貴方はこれからも、あの子のような痛みを産ませ続けるんでしょうね……。
それなのに、あの子は人間を恨むこともなく、最後まで夕陽のように優しく微笑んでいました。
ご家族様の優しさには、本当に頭が下がる想いです。
最後の最後に、あの子は産業動物ではなく、フラットコーテッドレトリーバーとして、イエイヌとして、家庭犬として生きることができました。
本当にありがとうございました。
夕陽を見るたびに憶い出すよ。
誰よりも優しく笑っていたお前の顔を。
地獄を知っているからこそ、その笑顔は太陽よりも優しく周囲を照らしていました。
長い長い戦いだったね。
お疲れさま。
向こうでご家族様とまた会う日まで、元気でね!

Until you see your family again, play nicely with Mari-chan and your friends!


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