犬生の夜明けぜよ

最後の赤柴

2024年12月1日、繁殖場より柴犬の♂の子を迎え入れました。
2009年9月生まれの、15歳です。
どこで生まれたのか、いつからパピーミルにいるのかはわかりませんが、これまでの犬生はロクなものではなかったはずです。
少なくとも僕がパピーミルで働いていた4年前から保護当日に至るまで、「りょう」はコンクリの上に木板一枚しかない狭い檻の中で、全く変わらない暮らしを強いられていました。
おそらく15年のほぼ全てを、この空間で過ごしたのだと思います。
気が狂うほどの長い時間を、ただ独りで耐え抜いてきたのです。
このような犬舎の掃除の仕方は、ホースによる水洗いです。
真冬だろうと関係なく、冷たい水で犬舎の中を洗い流します。
その際に、何十頭もいる犬達の中でケンカをしない組み合わせで、犬達を一斉に出し、広くない通路で運動させます。
それは決して「運動」と呼べるものではなく、ただ本当に通路に出すだけです。
10頭一緒に出せば、1部屋洗うのに1分だとすると10部屋分で10分間運動できますが、「りょう」は咬み犬でほかの子と仲良くできないとされ、いわゆる「1頭出し」の子でした。
つまり「りょう」の運動時間は1部屋洗い流す分の2，3分、長くても5分程度のものでした。
それ以外の23時間55分は、狭い檻の中で暮らすのです。
365日、夏だろうが冬だろうが関係ありません。
そんな地獄に、たくさんの繁殖犬が今もいるのです。
残念ながらその地獄は遠い世界のことではなく、知られていないだけできっと皆さんの身近にも存在しています。
このブログを読んでくださっている方々は、おそらく犬が好きで、動物愛護の意識が高い人達が多いと思います。
だから既に知っている皆さんに訴えるだけでは、ダメなんですよね。
動物の福祉アニマル・ウェルフェアを世に啓発してゆくためには、動物に興味のない人達にこそ知ってもらわないとダメなのだと思います。
そして興味のない人達――動物の命をある意味で公平に、平等に、冷徹に扱う者達は口を揃えて言うでしょう。
「牛や豚は殺すのに、なぜ犬や猫だけ助けるのか」と。
それは一理ある意見だとも思います。
僕もその問いに明確な答えを持っていません。
僕は豚が酷い目に遭いながら、地獄の中で殺されるために生かされている――その現場を知っていますが、豚を助けずに犬を助けるために活動しています。
これが差別であり、贔屓であると自覚しているつもりです。
でも、興味のない人達を巻き込んで世の中の流れを作り出さなければ、きっと動物愛護法も変わらず、繁殖犬達を地獄から救い出すことも不可能だと思います。
だから、牛や豚は確かに殺すために生かされていますが、せめて生きている間の福祉を、苦痛のない福祉を推進しなければ、繁殖犬達を助けることはできないのではないか。
僕には目の前の犬達を少しだけ救うことしかできませんが、本当の意味で「りょう」のような子を地獄から救い出すためには、動物全体の福祉を考えなければ――

「りょう」はこの繁殖場にいる柴犬の、最後の1頭です。
この場所で死んで行った全ての柴犬達――どうか「りょう」のことを見ていてほしい。
お前達が檻の中で懸命に燃やした命は、夜明けを導く星になった。
それは決して無駄なんかじゃない。
その星々に向かって、「りょう」改め龍馬りょうまは吠える！

犬生の夜明けぜよ！

二匹のリュウ

名前について。
流星の元の名前（呼び名も血統名も）は「龍」号と言いました。
そして偶然にも、龍馬の血統名も「竜」号なのです。
柴犬の血統名に「ドラゴン」は珍しくないのかな？
これだとわかりづらいので、おそらく若いほうの竜を「りょう」と呼び名を変えたのではないでしょうか。
僕もずっと「りょう」と呼んでいたので、「龍馬」という名前を思いついた時、流星の影が感じられてなんだか温かい気持ちになりました。
本当は流星と龍馬を会わせてあげたかった。
それは叶いませんでしたが、龍馬が駈ける空を、流る星はきっと今も照らしてくれているでしょう。
龍馬。
長生きしろよ！