最期の水、最後の景色

パピーミルで働いていた時、せめて一回だけでも檻の外に広がる世界を見せてあげたくて、僕は休日に数頭ずつ繁殖場の塀の外を犬達と散歩しました。
楽しそうに尻尾を振りながら歩く子、固まって全く動かない子、どこまでも駈けて行ってしまいそうな子……。
「繁殖犬」と呼ばれるあの子達は、ただ生まれた境遇が違うだけで、家庭で愛されているわんちゃんたちと何も変わりありません。

もう今日にでも旅立ってしまいそうな弱った子を、僕は塀の外へと連れ出しました。
ラブラドールレトリーバーの女の子でした。
無力な自分に、この子を助けることはできない――それでも、せめて最後に、天井も壁も扉もない、最果てへと繋がる景色を見せてあげたかった。
翌日、2020年11月22日。
ドーナツは冷たいコンクリートに敷かれた新聞紙の上で、深い眠りに就きました。

屠殺を待つブタたちは、「最期の水」を飲むこともできないそうです。
どうせ殺してしまうのであれば、彼等に水を与えるのは無駄なことでしょうか?
無意味? 不合理? 非効率?
であれば――

僕がドーナツにしてあげたことも、意味のないことだったのでしょうか?

「最期の水だとか、輸送車にクーラーだとか、そんなことを主張するくらいならそもそもブタを食べるのをやめろと主張すればいい」
「そもそもペットの生体販売やパピーミル自体をなくせばいい」
――といった「そもそも論」は確かにその通りではあるのですが、どうしようもない時、どうしようもない瞬間、蠟燭の灯が消えてしまうどうしようもない最後の時間に、命のために何かを為そうとする人の心は、決して無駄ではないと僕は信じています。
きっとそれを忘れてしまったら、人は獣と同じです。
獣と同じであるなら、文明人ですらない私達に産業動物の命を管理する資格はありません。
それができないなら、人類は狩猟の時代に戻るべきです。

なあ、ドーナツ。
倉庫の前で旅立って行ったお前を、俺は今も時々思い出すぞ!
あの草原で、元気に駈け回っているお前達に会うのが楽しみだ!

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保護犬シェルター【石松家】の管理人です。
サンホラとプロ野球が好き。

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